アール ドゥ ヴィーヴルとは・・・暮らしをより美しく豊かに、自分らしく楽しむ術
parfum, bougieを切り口にフランスに住む人々のライフスタイルを紹介します。


パリ3区、2匹の猫と暮らすシリル

自宅の扉が開くと迎えてくれたのは、やわらかなフレグランスキャンドルの香りと2匹の猫。
Musée des Arts et Metiers/パリ工芸博物館にほど近く
、センスのよいブティックの並ぶマレ地区にも続く界隈である。見晴らしのよいアパルトマンの窓から外を眺めると、パリの古い街並が美しい。フランスでは個性的で魅力的な香りを求める香りのこだわり派の間で人気の香水メゾン、ラルチザン パフューマー。店長を務めるルーヴル・カルーセル店には歩いて通っている。彼のお気に入りのセルジュ・ゲンズブールをBGMにインタビューがはじまった。

様々な職歴の中で感性を磨く
学生時代は、舞台衣装を学び、卒業後はステージコスチューム制作の仕事に就く。5年の後、紅茶の世界への転職を決意。子どもの頃に牛乳が嫌いで、母がいつも紅茶を飲ませてくれたことがきっかけで、7歳で既に様々な茶葉を知り、興味が湧いていたという。フランスでは大手の紅茶を扱う会社「Les Palais des Thés」に勤務した。ここでの経験が味覚や香りの感性を養う大きなチャンスとなったそうだ。さらにコーヒーやチョコレートにも興味が広がり、コーヒーの輸入会社に移り、その後、中国茶の企業、ベルギーの有名ショコラティエPIERRE MARCOLINIを経て、現在の香水の世界へ。自分の感性を尊重し、興味の向く方向へと仕事の幅を広げ、次々と経験を積んできている。


ゆったりとした空気の流れるサロン。ボルドーのカーテンなど、アクセントが効いた配色

香水ブティックで働くこと
ラルチザン パフューマーでの最初の勤務は、左岸サンジェルマン・デ・プレにあるブティックだった。小さいけれども、とても美しいブティックで、パリでは、宝石箱のようだと例えられていたという。パリはカルティエによってそれぞれ独自の雰囲気を持っているので、異なる地区で働くことは、その街の表情、行き交う人々を知ることにも繋がりとても面白い。どちらもツーリストの多い地域だが、サンジェルマン・デ・プレはインテリジェントなお客様が多く、ルーヴル・カルーセル店はルーヴル美術館に隣接しているため、いわゆる大衆的な雰囲気。
お客様に香水を奨める際に心がけていることは、僅かな会話やその方の雰囲気から個性やスタイルにあった香りを探すこと。「香水はとても私的なもの。ファッションや好きな街、趣味、ヴァカンスの過ごし方、時にはきらいな食べ物やテレビ番組なども参考になります。」


香りの想い出は故郷から
18歳までを過ごしたのは、フランスの南西、スペインと国境を分けるピレネー山脈の大西洋側に位置するVallée d'Ossau ヴァレ・ドッソーという地域。山の豊かな緑や水、自然が贅沢なほどにあふれる場所である。想い出の香りは山の香り。また彼の故郷からさほど遠くない祖母の住んでいた田舎の植物や動物のような香りだという。まさにこれが彼の原点の香り。
初めての香水は、ディオールのFahrenheit ファーレンハイト(1988)。13〜14歳の時に自分で選んだそうだ。その後パロマピカソのMinotaure ミノタウロ(1992)、今では廃番になってしまったらしい、アラミスのHavana Reserva ハバナレゼルヴァ(1996)。香りへの開眼は比較的早かった、と語る。母の香水の記憶も鮮明。彼女は香水はあまり変えず、春〜夏はニナリッチのL'air du Temps レールデュタン
(1948)、冬はディオールのMiss Dior ミス・ディオール(1947)。幼少の頃に香りへの興味は既にスタートしていたのかもしれない。

好きな香り、そのまといかた
好きな香水の系統は、革の香り、新芽のような香り、つんとする香り、重めのウッディー、スパイシーなど。フルーティー、柑橘系、パウダリーなものはあまり好きではないそう。現在およそ30本の香水を持っている。もちろん、他社ブランドのものも好きで、お気に入りはセルジュ ルタンスのAmbre sultan アンブルサルタン(2000)や、シャネルのEgoiste エゴイスト(1990)など。コムデギャルソンのIncense アインサンスシリーズ(2002)はすべて気に入っている。一番最近購入したのは、ラルチザン パフューマーのDzongkha ゾンカ(2006)。 季節や、シチュエーションにはこだわらず、直感でその時まといたい香水を選ぶので、時には夏に重い香りを使うこともあるそうだ。


自分にとってのキャンドル、香りとは
キャドルの想い出は、「山に囲まれた故郷の冬、暖かい家の中で閉じこもって過ごしている時間、暖炉の炎。」 キャンドルはほぼ毎日使うという。食後やバスタイムなどのリラックスした時間に灯す。食事のテーブルや、インテリアには長いフォルムのキャンドルをよく使っている。 好きなキャンドルの香りは、フレッシュな香りや、ひんやりとした氷のような香り、マリン調、地中海を想わせる香り。甘い香りやフレッシュグリーンなどは好みではないそう。
「私にとって、日常における香りの役割は、自分の生活に喜びをあたえるもの。それは都会からみた、田舎の自然の心地よさに似ています。パリの喧噪の中で暮らす中で、ほっと、気持ちを和らげるためのアイテムです。」



サロンの入口にはキャンドルの炎がゆらぎ、心地よい香りが気持ちを和ませてくれた
 
たっぷりと陽光の入るバルコニーと窓際には植物が並ぶ

「抱きしめてくれる光
茉莉花の香かオレンジの色か
夏の日の陶酔」
―日本で受賞した俳句コンクールの賞状
 
食事やリラックスのひとときには欠かせないキャンドルもインテリアの一部

グルマンな彼からの美しくおいしいもてなし
 
テーブルのバラは、窓の外のパリの街並を背景に、まるで一枚の絵画のよう

壁にかけられた掛け軸も、さりげなくカラーコーディネイトされている
 
バルコニーに据えられたがランプ。パリの風景をよりドラマチックに演出する

感性を磨きながら、経験を重ねていく表情は活き活きとしていた
 
取材中も気ままに歩き回る愛猫に和まされた
プライベートな時間は
前職の関係から、よくオペラ座やシャトレ劇場などへ演劇やバレエ、クラシック音楽のコンサートに足を運ぶ。詩を読むのも好きで、お気に入りは、ウォルト・ホイットマン(草の葉)や、シェイクスピア、ジャン・ジュネなど。自ら俳句も詠むこともある。部屋に飾られていた賞状は、日本の俳句コンクールに入賞した時のもの。フランス語で綴った詩を日本語の俳句に置き換えた香りをテーマにした素適な句だった。

好きは街は?と訪ねると、「バルセロナに恋をしています!」と即答。「バルセロナはアールヌーボーの時代から現在もヨーロッパのカルチャーの源とも言えるほど、多くの才能が溢れる街だと感じます。建築・料理・演劇など、実は世界に多くの影響を及ぼしているところだと思います。何度行っても飽きることがありません。是非みなさんにもおすすめしたいです。」

インテリアのスタイルは、ミニマル&コンテンポラリーが好み。ジャポニズムはそれらとの相性が良く、ほどよいミックスアレンジを楽しんでいるそう。サロンの壁に日本の掛け軸がさりげなく馴染んでいた。ひとつのスタイルだけでなく、自分流にミックスするのが面白いと言う。

インタビュー中も、美味しいカフェとプチフールでもてなしてくれた彼は、「私は食いしん坊だと思います」と語る。好きな食べものにもこだわりがたっぷり感じられ、話はつきることがなかった。好きなフルーツはフランボワーズ、バナナ、ランブータン。好きな魚は、サンピエール。野菜はフヌイユやタンポポの葉。お肉は全般に好きですが、お気に入りは、Moelle de osseuse 牛の骨髄。「骨の中身はフォアグラのように柔らかい口溶けで、とても美味しいです。」チーズは、モン・ドール。好きな料理は、フォアグラのポワレ。得意料理は鴨料理全般とのこと。


シリルおすすめのパリのアドレス

会話の中で次々とこだわりのアドレスが飛び出すシリル。お気に入りのブティックをいくつかご紹介すると。

マカロン 「パリではラデュレが有名ですが、私のおすすめは、洗練された味わいのPIERRE HERMÉ。」
ショコラ 「優秀なショコラティエがパリにはたくさんありますが、JEAN-PAUL HÉVINがお気に入り。ここのガトーショコラ・フランボワーズは、一度お試しの価値ありですよ。」
ハーブティー 「Herboristerie de la place Clichyは、カモミールや、ユーカリなど、いろいろなハーブティが好みの量で購入できる、私のとっておきのアドレスです」
パフューマリー 「Etat Libre d'Orange という香水ブランドは、個性的で面白いラインナップ。最近特に、香水・キャンドルともに気に入っています。」

パリのお気に入りの場所は、モンマルトル近くのAbbesse界隈、Quais des Jemmapes、モンパルナス駅の上にあるパークアトランティック、サンジョルジュなど。

好きな季節は
秋から冬にかけて。冷たい空気で、天気の良い日や、雪が静かに降り積もる美しい情景が好きです。

ヴァカンス
旅行が好きで、一番最近は3回目のヴェニスへ行ってきた。「1週間ほど滞在、ゆっくり街を堪能でき、すばらしいところでした。その前のロシアのサンクトペテルブルグもとてもよかったです。」次のヴァカンスは、ブエノスアイレスを予定しているのだそう。

将来の夢
バルセロナに住みたい。そこでフランスのガストロノミーを扱うお店を開けたら最高ですね。いまはその夢の途上にいるように思います。

Art de vivreとは
「自分のできる限りを、美しさのために。」自分の暮らしに関わるすべてのものが、美への追求であると思う。 雑誌などメディアが次々と紹介するヘルスケアなどに惑わされず、好きなものに囲まれて生きることが、私にとってはストレスのない、心身ともに健康的な状態。その為の努力を日々重ねていきたいと思っています。

(プロフィールは取材時のもので、閲覧される時点で変更されている場合があります。)


 

 

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