四季折々の植物の話。



仏 mûre / 英 Blackberry

夏の陽射しを浴びて艶やかな黒い実をつけるブラックベリー。こくと酸味のある香りで、フランスの夏の野山を飾る。
フランス語では、mûre / ミュール と呼ばれ、framboise / フランボワーズ(ラズベリー)と同じく木イチゴの仲間。十分に熟した黒々としたフレッシュな果実の摘みたてをほおばると甘酸っぱい美味しさが口いっぱいにひろがる。

アメリカ中部が原産で、5月〜6月に白い花をさかせる。その後つけた実を収穫する。ラズベリーより肉厚で張りがあり、果実の中心には芯がある。バラ科の落葉半つるで、茎には刺がある。野生としても育ちやすく、フランスでは家庭菜園でもよく栽培されている。

主に食用として用いられ、ジュース、コンフィチュール、製菓等に使用し、ポリフェノールやビタミンEなどの含有量が多いため、薬効も期待される。また食物繊維も豊富。幼少期、晩夏から初秋に森を散策しながら野生のブラックベリーをつまんだ記憶、コンフィチュールやパイの味などが想い出となっている欧米人も多い。

香りは、レッドベリー、カシス系に、ややムスク調、ウッディー調が香る。ラズベリーとよく比較されるが、より濃厚。
果実から精油は採取されないため、香料会社がムスクノートやフルーティーノートなどを調合し、再現され、食品の香りづけなどにも用いられている。

L'Artisan Parfumeur / ラルチザンパフューマー のアイコン的ロングセラー、Mûre et Musc / ミュール エ ムスク(1978年)は、ミュールのイメージを全面に登場させた香水として発売以来ファンが多い。実がなる秋の森をイメージしたムスクとのマリアージュが当時意外な組み合わせで話題をさらった。トップはレモンやマンダリンなどの柑橘ノートに、バジルのアロマティックノート、ミドルは、ミュールの優しい酸味とわずかな甘さが軽やかに香る。ラストはムスクにオークモスでしめくくられる。ミュールのフルーティーな甘さ、さらにそこに隠れるムスクのトーンが、パウダリーノートをひきつれて、ムスクやオークモスと調和する、クールかつクラシカルな印象。その後1994年に発表されたMûre et Musc Extreme ミュール エ ムスクエクストレームは、よりミュールやカシスなどのベリーらしい、酸味やフルーティーノートがトップから感じられ、よりグルマンかつ濃厚な香り。

Jo Malone の Blackberry&Bay / ブラックベリー&ベイ (2012年)は、子どもの頃、手を深紅に染めながら夢中になってほおばったブラックベリーの無垢な香りの記憶を表現した。コクと酸味のあるブラックベリーとグレープフルーツがはじけるようなトップから、フレッシュでハーバルな生のベイ/月桂樹が香り、さらにブラックカラントの蕾、シダーやベチバーなどが森や野道を思わせる、ナチュラルで軽やかなタッチのコロン。グラース出身の調香師FABRICE PELLEGRIN/ファブリス・ペレグリンは、イギリスの田舎道を歩いている際にインスピレーションを受け、幼少期のイノセントさを思い出させてくれるようなエモーショナルな香りに仕上げた。

子どもの頃の楽しかった想い出を蘇える野生の実の香り。自然の恵みには、忘れかけていた感情の記憶が潜んでいる。
 

 
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